Grieg Piano Works/ Aldo Ciccolini (2023.10.28)

一週間前に東京までコンサートを聴きに行ったとき、午前中に少し時間があったので神保町の古本屋街を歩いてみた。その時に中古レコード店で見つけた1枚である。その他にはドワイヤン演奏の「フランス・ピアノ曲集」、カザドシュ演奏のモーツァルト「ピアノソナタ集」を購入した。収穫の多い一日てあった。

CDと違ってLPディスクは時々掘出し物がある。グリーグのピアノソナタで、チッコリーニの録音があることは知らなかった。これまではラローチャとグールドの演奏しか聞いたことがなかったのだ。これは是非買わねば、と思って会計に持っていったところ、なかなか音楽の話が好きな店員さんのようで、このジャケットの写真素敵ですね、などといろいろ会話がはずんだ。東京に出かけるとこういう楽しみもある。 チッコリーニは子どもの頃、スカルラッティのピアノソナタ集をよく聴いていた。その後、サン=サーンスのピアノ協奏曲集の名演を記憶している。さらにドビュッシー「ピアノ作品全集」もなかなか良かったと思う。北欧の作品をイタリア、フランス系のピアニストが弾くことは想像できなかったので、なかなか新鮮な体験であった。

予想した通り、彼の特徴と思われる明るい音色で、流れがよく、リズム感の良いさわやかな音楽である。A面には「ピアノソナタ」と「抒情小曲集」よりワルツ/妖精の踊り/蝶々/春に寄す。B面に「ノルウェーの旋律による変奏形式のバラード」、そして「抒情小曲集」から小鳥/音楽帳/小川、最後に「ノルウェーの婚礼への踊り」という曲目であった。

この中で最も感銘を受けたのは「ノルウェーの旋律による変奏形式のバラード」である。重要な作品であることは間違いなく、アイナル・ステーン=ノクレベルグが「その本質的なピアニスティックな構築上の要求は、演奏者にとって試金石である。グリーグにどんなに感謝してもしきれないほどだ」と言っているのはよく分かる(『グリーグ全ピアノ作品演奏解釈』)。主題が素晴らしいし、変奏曲の形式も魅力的である。この曲は1875〜76年の作曲だが、のちのニールセン「主題と変奏(1916)」やハンニカイネン「幻想変奏曲(1924)」が登場する一つのきっかけとなったのではないかと思われるような、幻想的なピアノ技法が素晴らしい。演奏の機会が少ないのが残念だ。

まだまだピアノ作品には「知られざる名曲」はある。それをできるだけ自分で演奏することを生涯の目標としたいと思っている。さしあたってはこの「バラード」、そしてニールセンの諸作品である。人生は長いようで短い、とつくづく思う今日この頃である。



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